■生の再考迫る高齢者の困窮
2束100円の冷や麦で数日分の食事とする80代男性、野山で山菜を採り、月2万5千円の年金で暮らす女性。高齢で生活が破綻(はたん)する「老後破産」が増えている。昨秋放送のNHK番組の取材班が本書をまとめた。
老後破産に至る道は、重篤な病気や夫の死による生活急変、持ち家があるせいで生活保護が受けにくく困窮するケースなどがある。数百万円の貯金は気休めにすぎず、必要な医療を控えたり、電気を使わない生活になったりする。取材陣はそんな高齢者のもとを足しげく訪れ、生活実態を淡々と描く。
今後増えそうなのは二世代の連鎖だ。中高年の「子」が親の介護、あるいは本人の失職で実家に帰る。すると、親の年金に頼り、貯金まで食いつぶす。結果、二代で老後破産に陥る。
明快な解決策は提示されていないが、基本的には家族や知人とのつながりを維持し、行政や地域包括支援センターに相談することになろう。
ただ、そうして生をつないでも悩ましい面もある。ある医師は「命を助けたとしても、本当にその人のためになるのか、悩む」と打ち明ける。本書の副題は「長寿という悪夢」だが、困窮した長寿は生の意味さえ再考を迫る。多くの人がこの危機に陥る可能性があるという指摘は重い。
Bookasahi.comより [文]森健(ジャーナリスト)
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