■「田舎の田舎」が示す人口増の光
日本創成会議の人口予測に基づく「地方消滅論」は、人々に衝撃を与え、多くの議論を呼んだ。だが、本当にこの報告書の結論は正しいのか。著者は、使用されたデータや前提に問題があると指摘し、予測は必ずしも正確ではないと強調する。著者らの独自人口予測によれば、近年Uターン、Iターンの多い島として有名な島根県海士町は、「消滅の恐れ」から一転、2039年時点で増加予測になるという。
背景には、人口回帰の静かな潮流がある。著者らは島根県の全県中山間地域における近年の人口動態を分析、なんと、3分の1を超える地域で2010年以降、30代夫婦やその赤ちゃんが増えているという。しかも興味深いことに、増加傾向は中心部より「田舎の田舎」で目立つ。
「わが町はもうダメかもしれない」と思い詰める必要はない。重要なのは、人口安定化に向けた具体的な処方箋(しょほうせん)を示すことだ。著者は、毎年人口の1%を移住者という形で取り戻していくだけで、2040年頃には8割方の地域で人口安定化が見えてくるという。
ヒントは、イタリアの山村にある小規模自治体だ。なぜ彼らが元気なのか。人々は衣食住を自ら生み出し、専門職人としての誇りを持ち、お互い取引しあうことで所得の域内循環を実現している。
毎年1%の人口増加を支えるには、毎年1%の所得増加があればよい。そのために必要なのは、結局は所得の域外流出を生み出す派手な開発プロジェクトや企業誘致ではなく、域内経済循環の強化による所得の取り戻しである。中山間地域はいまや、食料や燃料の多くが外部依存である。これを一部でも自給に戻せば、所得1%を取り戻せる。
こうして目標が具体化し、それが意外に手の届きそうだとなれば、何から着手すべきか見えてくるだろう。「消滅論」で意気消沈した自治体にぜひ、本書で次の一歩を踏み出すきっかけを得てほしい。[評者]諸富徹(京都大学教授・経済学)~book.asahi.comより
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