先月、用事で久しぶりに御茶ノ水駅に降り立った。昼前で用事の時間まで少し余裕があるので近辺で早いお昼を摂ることにした。とりあえず駅から駿河台の交差点に向かって歩き出した。途中、山ノ上ホテル、明治大の前を通りながら通りの雰囲気に昔の面影は残るものの、この40年程で御茶ノ水は随分と変わったように思った。
一方で40年以上前から続いているお店もあり、あまり変わっていないのかもしれないという思いもある。いずれにせよ、私の好きな街のひとつだ。路地が多く、路地に一歩入れば下町の風情もある不思議な街だ。
駿河台の交差点を越えてすずらん通りに入って行った。家内がかばん屋さんで足を止めた。何故か、懐かしい昔ながらのかばん屋さんという風情に毎回、足が止まる。最近は、カフェを併設する本屋が多く、昼飯の帰りに通り過ぎた東京堂書店内のカフェに寄った。
すずらん通りを散策しながら、随分前にランチを摂った寿司屋のことを思い出し、そのお店があれば、そこでランチを食べてみたくなった。食べたのは寿司ではなく、鯵か鰯のたたきの定食だったと思う。何しろ、いつ頃だったのかも思い出せないほど前なので店の場所もうる覚えだ。ただ美味しかったことだけが脳裏に残っている。
ひょっとするとビルにでも建て替えになっていてお店がなくなっているかもしれないと思いながらすずらん通りを歩いて行った。確か、突き当たった広い通りを渡って九段下方向に進み、左側の路地を入ったビルの谷間の角にあったように記憶している。突き当たった通り(白山通り)の向かい側の右手、靖国通りと交差する神保町の交差点の角に岩波ホールが見える。
お店の名前は「ひげ勘」
確かここを渡って靖国通りと並行してビルの間をまっすぐ直進し、何本目かの路地を左折した記憶がある。2本目の路地の左側にあっけなく目的の店が見えた。店の前には、既に5~6名程の年配の男性が開店を待っていた。どうやら常連さんのようだ。時間は11時半を回っていた。店の名前は「ひげ勘」だった。
10分程して女将さんらしき人が扉を開けて出てきて暖簾をかけ、待ち客を順番に店の中に招き入れた。店内は10名程のカウンター席と入り口横の4人掛けのテーブル席が1つだった。席に着くやいなや女将さんから注文を促された。
カウンターの正面の戸棚の扉に手書きのお品書きが貼られていた。
あじのたたき 1,000 円
いわしの刺身 1,000 円
かつをの刺身 1,000 円
あじの大盛り 1,200 円
小ねぎま 300 円
みそ汁おかわり 100 円
前回はおそらく、あじのたたき定食を食べたように思う。しかし、私はお刺身の中でかつをが最も好きなので、かつをの文字を見て他の料理を注文する選択肢はなかった。家内はあじが好きでお寿司を食べると必ず、あじを注文する。冒険をしない家内は、案の定、あじのたたきを注文した。
メインの料理も美味しかったが、しじみのみそ汁の品の良い味が格別だった。15分くらいでほとんどの人が食べ終えて勘定を済ませて店外に消えて行った。我々も食べ終えて店を後にした。近くに来たらまた寄りたいお店だ。ランチの提供の仕方は、日本橋の「つじ半」に似ているかもしれない。丼にあじのたたきを載せればひげ勘オリジナルのぜいたく丼の出来上がりだ。
最近は、昔のようなランチを提供する個人のお店が減り、チェーン店ばかりになってしまったように思う。画一的な料理ばかりで料理人が手作りしたランチを手頃な値段で食べることが難しくなっている。円安による仕入れ価格の高騰と人手不足による人件費の高騰で最近は、チェーン店の大戸屋の定食も1,000円を超えるものが増えている。
こうした経済環境は、工夫次第で個人の定食屋さんにチャンスがあるように思う。短時間営業のランチ専門店や夕食専門店などはどうだろうか。アルコールを提供せず、品数を抑えて回転率を高め、食材にこだわった料理をリーズナブルな値段で提供すれば集客が見込めるのではないだろうか。短時間労働でそこそこの収入が得られるのなら、不安定で?長時間労働のサラリーマンやOLより働き甲斐があるのではないだろうか。
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ただし、売上が好調だからと拡大路線を取れば、結局、いくらでもあるようなチェーン店と差別化できなくなってしまうだろう。今後の人口減社会では、もはや大きいことはいいことではないように思う。最近、成功しているお店は、店主のこだわりがお客を惹きつけているような気がする。結局、自分が食べたいもの、作りたいもので勝負するところにチャンスがあるように思う。経営者になるより、経営感覚を持った料理人になる方が幸せなように思う。 おしまい
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