12月のクリスマス間近の平日、用事で青山一丁目駅の周辺にいた。3時くらいに用事が終わり、家内が投函するために持っていた年賀状を近くの郵便局で出してから事前に調べておいたお蕎麦屋さんへ向かうことにした。
目的地は室場砂場赤坂店。本店の日本橋には何度か行っている。外出した時は、昼を食べずに早い夕食を採るのが習慣になっている。だから、夕方でも営業している通し営業の店に行くことになる。
室町砂場の平日の営業時間は11時から20時まで(本店は11時30分から21時まで)。日本橋の本店に行くときはいつも4時前後にお店に入ることが多い。昼のお客が退散して静まり返った店内が好きだ。
たいてい、坪庭の前のテーブル席を案内してくれる。普段、日本酒は飲まないが、この席に座るとお猪口を傾けたくなる。焼きのりやあさりの佃煮をつまみにして飲むお酒は格別だ。年を取るとおいしい料理をちょっとつまみながらお酒を飲むときに至福の時を感じる。
赤坂店は初めてなのでどんなお店なのか分からない。まだ、夕食には早いので電車に乗らずに散歩がてらお店へと向かうことにした。スマホの地図アプリが苦手だ。方向音痴なので画面を見てもよく分からないことが多い。ナビ任せで歩き出した。
裏道らしき通りを歩いているとカンボジア大使館の前を通ったが、どこを歩いているのかよく分からない。庶民には近寄りがたい高級外車が止めてある瀟洒な家の前を通ったり、前を歩いているブランド物の洋服を着た裕福な家庭の子女に土地柄を感じた。
赤坂小学校を過ぎて左折し、通りを歩いて行くとナビが松屋のところを右折するよう案内してくれた。ちょっと歩いて丁字路を左折するとお店が途切れた。人通りの少なくなった通りを歩いて行くと道沿いにおそばの看板が目に入って来た。時間は4時近くになっていた。
木造建ての2階の目隠し板の後ろに洗濯物が干してあるのがなぜか粋に見えた。2階は住居になっているようだった。1階の入口に下がった暖簾の横の白壁に井桁型の木枠に囲まれた行燈様の照明に砂場の文字が書かれていて昔ながらの雰囲気を醸し出していた。気持ちが落ち着く。
中から出てきた人と入れ替わるように店の中に入った。昼の客が退散した後のようで店の中には他に客はいなかった。感じのいい、若くはない女性がひょろ長い、店の奥の小上がりの手前のテーブル席に案内してくれた。
店はこぢんまりした小さなお店だが、落ち着く空間だった。テーブルの前の格子に挟まれた窓の上部の切り取ったような小さな空間から外の赤く色づいたもみじが見えた。メニューが本店と同じでそれも安心感がある。何を頼むかに迷いがない。
最初の飲み物はビールにした。おつまみは、焼きのり、あさり、玉子焼きを頼み、後からお通しで出てきた梅くらげを追加した。
お酒の種類がないので迷うことがないのもいい。辛口の菊正宗を熱燗で頼んだ。杉の香りのするお酒に正月の匂いを感じる。しばらくして、常連らしい客が入って来ていつものあれという感じで注文していた。
他人が頼んでいるのを聞いていて焼き鳥を頼んだつもりで間違えてねぎ焼きを頼んでしまったことに気が付いたが、ねぎ焼きも好物なので良しとした。
〆は家内が天ぷらそば、私は、老舗の蕎麦屋でうどんというのは気が引けたが、室町砂場のうどんがどんなものなのかという興味からかき玉うどんを注文した。別の客が釜あげうどんを注文していたのでちょっと迷った。
安くてボリュームがあって適当においしいものより、多少、値が張ってもその時に食べたいものを少量食べる方が最近はしあわせを感じる。安くてもおいしいと感じられないものを食べたときは損したような気分になる。 おしまい