
普段、民放の路線バスの旅や鉄道の旅の番組はほとんど見ない。いかにもロケ感満載で悪く言えば演出臭があり、番組に入り込めない。そんな中でNHKの「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」は懐かしいフォークソングが流れ、地方の風景も実写感があり、好きな番組だ。六角精児のつぶやきと壇蜜のナレーションが番組と妙に合っている。
最近見た、再放送の「夏・石北本線を呑む!」で北海道の鉄道遺産・タウシュベツ川橋梁という場所の存在を初めて知った。「古代ローマの遺跡を思わせるその姿」という形容に納得してしまう。最初に見たときは人の手が入らずに自然に朽ちて果ててできた景観かと思ってしまった。
実際は廃線となった鉄道の橋梁を地元の町が買い取って残したもので「現場打ち鉄筋コンクリート枠の内部に割石を詰める」という保存工法のお蔭で自然な形で風化が進んでいるように見えるらしい。映像をよく見ないと鉄筋の入っていない石で作られた橋が長年に亘って風化したように見える。
美しい光景だと思った。こんな場所が日本にあるのだと。素直にそこへ行ってみたいと。山道を下った先に突如現れる滝のような新鮮さがある。
新宿などのチェーン店の派手な看板が無秩序に乱立する人工の街は異国のどこかという感じがする。日本である必要がない。そこでは景観より活気が重要なのだろう。だから周りの景色など誰も見ていないに違いない。主役はお金を落としてくれる来訪者だ。
「アーチ橋梁群は北海道遺産に登録されているが、タウシュベツ川橋梁はその立地の悪さから、保存措置の対象外とされている。これに対し、貴重な歴史遺産として補修を熱望する声もあるものの、費用・財政面で極めて厳しい状況にある。また逆に、あえて保存措置を取らず在るがままに任せ、朽ち行く姿を遺跡として観察しようとする考え方もまた多い。」とウィキペディアには記載されている。
タウシュベツ川橋梁の主役は自然だ。訪れたひとはその前に立ち尽くすだけでいい。彼の仕事は眺めるだけだ。それ以上何もする必要はない。何もしてはいけないのだ。
そんな他愛のないことを番組を見てぼんやり考えた。後に余韻が残る番組は少ない。これからも肩ひじ張らない映像を視聴者に届けてほしい。
六角精児のとぼけた、憎めない姿が番組とマッチしている。自作の昔どこかで聞いたようなフォークソングもいい。所ジョージの作る歌より感情移入ができる。うまいとかへたとかいう感想はいらない。カップ酒をなめながら車窓を流れる景色をいっしょに楽しもう。 おわり
👉バックナンバー - 六角精児の呑み鉄本線・日本旅 - NHK
👉鉄道旅だけにある「連れていかれる」旅情。六角精児さんの列車と車窓と酒と