(2020/9/21 更新)
消費税は、言葉ほど簡単な税制ではない。本来、消費者が支払うべき税金を販売事業者が預かって国に納付するしくみになっているため、間に複数の取引事業者が入ると複雑だ。事業者は自分が預かった消費税から前の事業者が預かった消費税を控除してそれぞれが消費税を国に納付するというなんとも手間暇のかかる税制だ。
課税期間中の課税売上げに係る消費税額-課税期間中の課税仕入れに係る消費税額
しかも、消費税免税事業者がいたり、軽減税率があったり、さらに輸出戻し税で消費税を預かってもいない事業者に消費税が還付されたりする複雑怪奇な税制だ。政治と利害関係者の妥協の産物だから矛盾だらけのように思う。
また、預かったはずの消費税の実態が価格転嫁できない立場の弱い下請事業者の値引きだったりするのだからとても公平な税制とは言えない。消費税で中小事業の体力が奪われているのが実情だ。
輸出戻し税の消費税の還付の理由を次の式を使って説明している人がいる。
納付するべき消費税額=(預かった消費税額)-(支払った消費税額)
単純に言うと預かった消費税より支払った消費税が多いから超過分を戻すだけだという明快な?説明だ。しかし、税金の還付とは、実際に税金を払った本人に払い戻す制度なのではないだろうか。”預かった”消費税と”支払った”消費税に区別しているが、どちらも預かった消費税だろう。預かった事業者が異なるだけだ。
現在の輸出戻し税は実態としては“自分が”預かった消費税額-“他人が”預かった消費税額という算式になっている。輸出事業者は輸出分に消費税が掛からないから自分が預かった消費税より他人が預かった消費税の方が多くなると算式により他人が納付した消費税が戻って来ることになる。
上記の算式により納入業者が納付した消費税を仕入先の輸出企業が還付を受けるということに違和感を覚えざるを得ない。海外の販売先から形の上で消費税を徴収していないから納入業者が納付した消費税を還付してもらうというのは何かおかしくないだろうか。
消費税が5%のときでも毎年3兆円の輸出戻し税が還付されていたというから10%の現在は6兆円の消費税が吹き飛んでいるのかもしれない。毎年、還付を受けているトヨタなどの自動車メーカーはひょっとすると一度も消費税を納めていないのだろうか。
👉戻し税-どこか腑に落ちない輸出企業への消費税の還付~この輸出戻し税は毎年3兆円にのぼるといわれており、消費税1%分の税収に匹敵するという。気になるのは、これが本当に戻し税かということである。
消費税の一部が中抜きされて国の財源になっていないのだろうか。自動車産業は、租税措置特別法の適用による税制上の恩典を受けているだろうし、道路等のインフラ整備やエコカー減税で国から実質的な販売支援を受けているのにさらに薄く広くという理念で国民が負担している消費税からも恩恵を受けているのだろうか。今や消費税の負担は薄く広くとは言い難いが…。
そもそも彼らが「支払った消費税額」とは、下請事業者が預かった税金であり、彼らが「預かった消費税額」から控除される金額だ。本来なら、彼らが預かった消費税額を相殺の限度額とするべきなのではないだろうか。つまり、消費税の還付は必要ないということだ。商品を国内で売るか、海外で捌くかは事業者の自由なのだから国が好きな自己責任の範疇なのではないだろうか。麻生流で言うなら、それが嫌だったら国内ですべて売ればいいだろうということになる。
逆から考えると輸出依存型の企業は、消費税を払わなくてもいいということになる。それどころか、消費税の課税事業者であれば輸出比率が増えれば増えるほどあたかも輸出奨励金のような多額の消費税の還付が受けられる。
結果的に輸出事業者と国内取引事業者との間で課税が異なることになり、公正で平等な税制とは言えないのではないだろうか。消費税が払いたくなければ、あなたたちも輸出すればいいじゃないかということになる。
「輸出時の消費税:日本」というJETOROのQ&Aには次のように書いてある。
質問 輸出における消費税の免税と還付手続きについて教えてください。
回答 国内取引では7.8%の消費税(国税)と2.2%の地方消費税、合わせて10%の消費税がかかります。しかし、輸出取引にあたる場合は、消費税が免除されます。これは消費税は国内で消費されるものに対して課税するが、外国で消費されるものには課税しないという考えに基づくものです。これを輸出免税といいます。(以下省略)
つまり、消費税が免税された事業(つまり、消費税を徴収しいない事業)のおかげで消費税の還付が受けられるという不思議。彼らが仕入で負担した消費税相当額を輸出商品に転嫁することは可能であり、転嫁するも転嫁しないも事業者の裁量で決められる。消費税を還付するのであれば、商品への消費税相当額の転嫁分については還付額から減額してもよさそうに思う。
彼らは消費税がいくら上がっても困らないどころか、消費税が上がるたびに自動的に還付金が増える。だから、経団連が消費税を上げろという要望書を国に出すのだろう。
輸出事業者は国内の仕入価格(消費税込み)で海外に販売しているはずはないだろうから消費税相当分は当然、回収しているはずだ。もし、輸出戻し税がなくなれば、国際競争力が失われると輸出事業者は反論するつもりだろうか。
消費税は税込処理(売り上げや仕入れに消費税を含めて経理をつける処理)をしている場合のみ、租税公課として経費処理することができるが、大半の事業者は消費税を経費として計上しているだろうから損益ベースでは影響を受けないはずだ。
ちなみに「消費税では、商品は仕入れた時に課税仕入になります。売り上げていなくて、在庫として残っていても関係ありません。」ということなので国内販売分か、海外販売分か、はたまた売れ残り在庫かということは消費税の課税には関係ないようだ。つまり、海外販売分の仕入に含まれている消費税は経費として計上されていることになる。
自明のことだが、輸出事業者が消費税の還付を受けられるのは輸出した商品の仕入にかかる消費税を預かった納入業者が既に消費税を国に納付しているからだ。
輸出分が国内消費でないから消費税が免除され、その結果として還付が受けられるのは海外の取引先から消費税相当分が回収できないということが前提になっているはずだ。しかし、その証明は困難だろう。ということは、輸出事業者は消費税相当分を回収できないものとみなされているのだろうか。
輸出戻し税の問題点は、理屈は付けられるにしても本人が預かっても納付してもいない他人(納入業者)が預かって納めた税金の還付を受けられるということだ。しかも、下請けの納入業者が納めた消費税が納入業者の値引きが原資になっているケースが考えられる。この場合、仕入輸出企業は値引きを受けた上に消費税の還付まで受けていることになる。そして、消費税相当額を転嫁して輸出しているならばこんなにおいしい制度はない。
税収不足で大量の国債を発行しているときに儲かっている輸出企業に税金を還付するとう政策が本当に必要なのだろうか。仮に赤字で輸出して消費税の還付金で帳尻を合わせていたらそれはそれで問題だ。消費税がいくら上がっても関係ないどころか、消費税を預かってもいない輸出企業に還付する政策が公平な税制と言えるのだろうか。
可処分所得に課税する消費税~税金の二重取り?
一方で現役世代の負担軽減のために薄く広く国民から税金を徴収するという理念で始まったはずの消費税が薄く広くとは言えなくなっている。現役世代の負担は減るどころか、所得の低い人ほど負担が増えている。
よく考えてみてほしい。サラリーマンは所得税、社会保険料が給料から天引きされ、残りの可処分所得からさらに消費税を負担させられている。
もし、消費税を廃止すれば、消費税に代わる財源として所得税と法人税の見直しは必至だ。所得税の累進課税や法人税を消費税導入前の水準に戻すことが必要になるだろう。あるいは、配当所得の上限制分離課税による総合課税も検討されるかもしれない。
だから、高額所得者や大企業は消費税率を下げることや消費税を廃止することには当然反対するだろう。財務省も安定的税収源であることが証明されている消費税廃止の抵抗勢力となるだろう。
消費税を廃止することで消費が拡大し、経済が活性化する可能性が高い。消費税廃止と言うと社会保障のための財源が枯渇するとか、菅新総理のように教育無償かに使われているからと恩恵を受けている人々を恫喝するような発言をする輩もいる。この人は携帯電話の値下げを主張し、電波利用料の見直しを持ち出して事業者を脅しにかかっている。そもそも電波利用料を上げたら事業者のコストが上がり、値下げの原資が減るのではないだろうか。
令和おじさんとマスコミは持ち上げているが、権力を使って脅せばものごとがうまく行くと思っているのだろう。すぐ人を恫喝する点は橋下徹と通ずるところがある。利益誘導と恫喝で安倍総理を支えた大番頭がリーダーになれるのだろうか。菅新総理の成功例が利益誘導政策の典型であるふるさと納税だ。
そもそも消費税は目的税ではない。医療費の膨張が財源不足を招いているのは事実だが、消費税が医療費や教育無償化の財源になっているわけではない。単なる財源不足の穴埋めに使われているだけだ。教育の無償化に使われているお金など全体の予算からしたら微々たる金額だ。消費税が法人税減税と富裕層の所得税減税の原資になっているのが実態だ。法人税の代替財源が消費税と言ってもいい。
👉庶民対グローバリスト~今や法人税の税収は消費税と所得税の2つの税収の三分の一しかない。消費税は景気に左右されにくい安定財源だ。
👉税収に関する資料 : 財務省~一般会計税収の推移、所得・消費・資産等の税収構成比(国税+地方税)、所得・消費・資産等の税収構成比(国税)、etc.
消費税導入後に落ち込んだ経済は、悪化するばかりでこれまでの規制緩和や雇用の非正規化という政策が経済の活性化には無力だったことが明確になっている。
消費税の廃止は立派な経済政策だ。消費税に頼って行けば、いずれ日本は経済破綻することになるだろう。消費税は原発と同じで深みにはまると後戻りが難しくなる。今が、分岐点だ。国の政策を見ていると道路を渡り始めたら決して引き返せない猫の姿を思い出す。後先考えない特攻隊のようだ。猫には自分が車にひかれた後の姿を思い描くことはできない。
安倍政権の行った、年金、ゆうちょ、日銀の資金を使った株価操縦もいずれ終わりのときが来る。金融政策による経済成長は、結局、いつもの問題の先送りにすぎなかった。
これまでのやり方が失敗だったのだから、もう消費税廃止という大胆な政策に舵を切るときに来ていると思う。安倍政権がこれだけやりたい放題やって後に残ったのは出口の見えない金融政策のツケだけだ。
日銀がため込んだ国債と日本株(ETF)は膨大な額になっており、原発の使用済み燃料問題と似ている。経済に悪影響を及ぼさないようにガラス固体化して地中深く埋める以外にもはや手がないのではないだろうか。安倍元総理(やっと元と付けられる)の後始末は結局、いつも本人以外の人間がすることになる。命を落とした役人までいる。
新自由主義だか何だか知らないが、世界中で大半の人が貧しくなり、ごく一部の富裕層だけが資産を急速に膨張させている。行き過ぎた株主偏重資本主義で労働者にばかりに効率化を求め、資本家や経営者は地道なモノづくりより、時間を買うという身勝手な理屈でM&Aに励み、巨額の赤字を計上してもだれも責任とらない。新自由主義とはだれも責任をとらない儲け主義なのだろう。
消費税が薄く広くという理念から外れると二重課税の色合いが濃くなる。質が悪いのは収入とは無関係に税金を払わねばならないことだ。
税金は、稼いだ額に応じて負担するというのがシンプルで公平だ。消費税は、徴税の仕組みが複雑で徴収にコストがかかり過ぎるだけでなく、穴だらけの欠陥税制だ。
サラリーマンの給与天引き、消費税と国は取りやすいところから税金を取り、法人は節税という名の脱法行為で税金逃れに奔走している。一方、100億円の配当収入があっても80億円の可処分所得が残る人がいる。日常生活にかかる消費税はたかが知れているから格差は天文学的に拡がらざるを得ない。
1億円以上の収入については総合課税にするべきではないだろうか。どうせ、最後は相続税で持っていかれることになるのだから欲張るのはやめた方がいい。海外に所得を移転して課税逃れをするような輩には倍返しで徴税するべきだ。 おしまい
(追記)前記「輸出時の消費税:日本」の回答中に記載されている輸出戻し税の実務について~輸出商品の仕入れにかかった消費税の還付(抜粋)
海外で消費される「輸出取引」等では消費税は免除されますが、輸出のために仕入れた商品代等(課税仕入れ)には消費税が含まれています。そのため輸出企業(実際の輸出者)は、確定申告をすることで仕入れ時に支払った消費税額の還付を受けることができます。この課税仕入れの金額には、商品などの棚卸資産の購入代金のほか、その輸出事業のために支出した諸経費(事務用品の購入や交際費、広告宣伝費など)も含まれます。…
消費税課税事業者が輸出取引と国内取引を併営している場合
還付消費税と納付消費税が発生します。その還付税額と納付税額は上記の「課税期間分の消費税および地方消費税の確定申告書」の中で同時申告され、還付税額と納付税額が相殺されます。消費税課税事業者はその差額を還付分として得る、もしくは納付します。…
消費税還付のための会計処理
輸出品に関し国内での商品・原材料の調達や諸経費の支払で既に課税された消費税還付は、以下のように会計処理します。
a. 通常、企業会計では、国内の売り先に商品等を販売した時に受取った消費税の額を「仮受消費税」等の科目に記帳します。輸出の売上では、免税で消費税の受取りがないため、こうした科目への記帳は不要です。
b. 商品、原材料、諸経費、その他に関し調達先・サービス元等に払った消費税の全額は、「仮払消費税」の科目に記帳します。この場合、支払いのどれが輸出にかかわるかを考慮せずに、納付した消費税の全額が記帳されます。
c. 決算の際に、事業年度内に受取った仮受消費税と納付した仮払消費税をそれぞれ積算し、「仮受消費税年度額」と「仮払消費税年度額」を算出します。
d. 前者より後者を差し引き、その差がプラスであれば、その差額を貸借対照表の「未払消費税勘定」に計上し、決算後税務署に納税します。マイナスであれば、その差額を「未収消費税勘定」に計上し、税務署より還付を受けることになります。ただし、納付または還付の税額算出の際に非課税売上が多い場合等は、必ずしも積算された差額で納付または還付されるとは限りません。
e. 売上高の中の輸出と国内販売の比率によっては消費税が還付されることがあります。 輸出の場合は受け取る仮受消費税がなく、仮払消費税の積算額には、輸出用、国内用の区別がないためです。売上が全額輸出の場合は、納付した消費税の積算額が還付対象となります。