2021/05/17 更新
昨日、「ヒトの言葉 機械の言葉」という新書本を読み終えた。一昨日から読み始めて250頁の本を延べ半日くらいで読み切った。私は、どちらかというと遅読の方なのでこれはとても速い記録だ。それだけ平易で読みやすかったのだろう。著者によればこの本は意味や文法、言語習得等のヒトと機械の言葉についての平易な「超入門」だそうだ。
私は、以前から現在のAIのレベルについて客観的なAIの現実に興味があった。結論から言うと思っていた通りだった。著者は情報技術者ではなく、プロフィールで見ると文系の言語学と情報科学の学者であり、作家のようだ。
AIの分野で言えば自然言語処理の研究者なのだろうか。理系の人のAIの解説は技術に偏った評価が多いように思う。しかしながら、AIの研究者は全般的にAIについて世間の人より現実的な認識を持っているようだ。
著者はAIを「数(の並び)を入力したら、数(の並び)を出力する」ものだと説明している。とても端的でわかりやすい説明だと思う。テキストも音声も画像もコンピューター内部では数として扱われ、その計算結果の数は人間にわかりやすいようにテキストや音声、そして画像に変換して出力される。
テキストも音声も画像も方眼紙の中のマス目や点としてその1個1個に数が割り振られているとイメージするとわかりやすいと思う。その数のデータを統計的に処理しているのがAIの姿なのだろうと思う。
「今、世間で盛んに『AI、AI』と呼ばれているのは、おおよそ『機械学習によって開発されたシステム』のことです。ただし、実際には機械学習以外の技術を用いて開発されるAIもありますし、機械学習もAIの開発だけに使われるわけではありません。」と著者は説明する。
さらに「機械はデータの中に見られる『パターン』なり『規則性』なりを自動的に見つけ出し、正解の出し方を探り出すことができます。つまり、私たちが正解の出し方を言葉で教えなくても、『人間が出した正解の事例』がたくさんあれば、AIは人間の判断の仕方を再現できるようになるわけです。ここで注意しなくてはならないのは、『パターンや規則性を自動的に見つけ出す』という部分です。このように言うと、それだけでとても知的で、人間っぽい感じがするかもしれません。実際にそれはとても高度で素晴らしい技術なのですが、やっていること自体は『数の計算』です。より正確に言えば、機械学習は『関数を求める計算』なのです。」と書いている。
そして「音声認識をするAIを作ることは、『音声の波を表す数が入力されたら、それに対応する文字や単語を表す数を出力する関数を作ること』であり、画像認識をするAIを作ることは、『画像を表す数が入力されたら、それに写っているものを表す言葉に対応する数を出力する関数を作ること』なのです。」とAIのしくみを著者は解説している。
機械学習の中で第三次AIブームの中心となっているのが深層学習(ディープラーニング)技術で、一つ一つの神経細胞にあたる計算の単位をつなげて作ったニューラルネットワークという概念から生み出されたものだ。
深層学習では、中間部分のニューロンの層をたくさん重ねると学習能力が格段に上がる反面、機械学習の結果得られる関数が非常に複雑になり、パラメータ数が億を超えることも珍しくなく、ブラックボックス化したAIが間違った動作をする事例が報告されている。
そのため、「機械学習を利用して開発されたAIは、どのように動作するかを完全に予測することができない」という事実が社会に認識される必要があると著者は説いている。AIの現実を知らない一般の人はAIに過度の期待と不安を持っているのではないのだろうか。
本書の始めに「今私たちの間でもてはやされているAIは、『一つで何でもできる』というものではなく、原則として、私たちが機械にやらせたい仕事ごとに開発されています。『一つで何でもできるAI』は『汎用人工知能』と呼ばれ、それ自体は重要な研究テーマの一つです。しかし、そのようなAIはまだ完成していません。」と書かれている。
こうした現実を考えるとソフトバンクの孫正義会長の発言に疑問が湧く。「孫氏はソフトバンクグループが『情報革命への投資会社、もっと言うとAI革命の投資会社になる。これ一本だ』とAI関連の投資事業に専念する」と宣言している。
私は、以前に東京駅に近い新生銀行の店舗でフロアに“放し飼い”にされていたaiboを体験したことがある。銀行のフロアのソファーに腰掛けていると“犬みたいな”しぐさでaiboがちょこちょこと近づいて来たが、正直、ゼンマイ仕掛けのブリキの鉄人28号とあまり変わらなかったように記憶している。とても人間を認識しているようには見えなかった。口座の解約に2時間以上待たされたが、aiboで癒されることはなかった。5兆、6兆の未実現利益に満足しない孫氏が虚業のリーダーにしか見えない。
本書はAIの解説というよりも言葉のあいまいさについての記述に大半が費やされている。しかし、それが反ってAIの実現がいかに困難な事業であるかを知るのに役立った。本書の「人工知能と話す以前の言語学」という副題に込められた著者の意図がわかったような気がした。 おしまい
🔗なぜAIは女性の人事評価を低く見積もってしまうのか 「悪意あるデータ」は避けられない
🔗「コップに水を入れて」という指示がAIにとって超複雑な理由 仕事はできても、空気は読めない