「すべての町は救えないー壊死する地方都市」
日比谷公園の野外コンサートに行き、途中、雨に降られ、コンサートが中止になったために立ち寄った日比谷図書文化館で書架の中央公論にふと目が止まった。表紙の「すべての町は救えない」というのタイトルが気になり、その月刊雑誌を手に取った。実は、雨宿りをしたのは、日比谷公園に来たもう一つの目的があったからだ。それは最近、購入したデジカメの試写だ。雨が止んだ後、公園の植物をデジカメで撮りながら帰る途中、公園の出口の手前で初めて「ボタンクサギ」という花に出会った。その花の花言葉の一つが「運命」であることを家に帰ってから知った。何気なく、手に取った中央公論との出会いは、大げさに言えば、運命だったかもしれない。少なくとも、まったくの偶然であることは間違いない。
最近、雑誌を購入することはめっきり減っており、まして普段、中央公論に目を通すこともない。図書館で最初の数頁を読んだが、雨が止んだのでデジカメの試写のため、外に出た。そして、帰りに錦糸町の駅前のビルの本屋で中央公論を買い求めた。
増田リスト~消滅可能性都市
中央公論を買ったのは「すべての町は救えない」という特集の中のメインの鼎談の参加者の一人が小泉進次郎氏だったこともある。私は、いわゆる無党派で特定の政党には興味が無かったが、小泉進次郎氏は若いながら、数少ない、本当の政治家のように思う。ぶれない発言と政治家としての使命感に共感できる。年齢は関係ない。鼎談の参加者の増田寛也氏も普段の言動に誠実さが感じられ、好感を持っていたので、人口問題について3人がどういう考えを持っているのか知りたくなり、中央公論という普段読まない書籍を購入した。鼎談の他に、日本創世会議・人口減問題検討分科会が発表した「増田リスト」に掲載された自治体の取材ルポや他に3つの関連論文が掲載されており、興味深く読むことができた。
危機感の共有と明確なビジョン
鼎談の中の小泉氏の「今度のリストを初めて目にした時、これは『事実に目を伏せるな』というメッセージなのだ、と僕は受け取りました。自治体の首長はもちろん、政治や行政に関わる人間にとって、『こういった現実を履修しなかったらわが町のことは語れませんよ』という、『必修科目』のようなもの」という発言に多くの人が共感できるのではないだろうか。
また、小泉氏はこうも言っている。「例えば行政コストの削減のため、集落にある公共施設を畳む必要がある、といった議論になったとします。選挙になれば、たとえ中長期的には無責任であっても、『反対』を唱える人が通りやすいという現実が、今あります。でも危機をみんなが共有したら、『こんな未来が予測されているのに、なんと無責任な』という形で、政治家の淘汰が進んでいくのではないか、と僕は思うのです。そうなれば、地方自治も国政も、真の自覚と責任と、将来に対する、明確なビジョンを持った人間たちで担われることになるでしょう。そういう意味でも、このリストをどこまで浸透させることができるかは、すごく大事です。」
さらに小泉氏は「被災地のこれからをシビアに見た時、今回のリストの数字は『本当にこんなものかな』というのが率直な感想です。来年の国勢調査を基に再調査したら、もっと厳しい結果になる可能性があるのではないでしょうか。」と言い、これに増田氏が「おっしゃる通りで、今回の予測は2010年の国勢調査をベースにしていますから、震災のファクターは加味されていません。被災地に関しては『甘め』と言われても仕方ないですね。」と応じている。
均衡ある国土の発展というウソ
増田氏の発言で「まずは『均衡ある国土の発展』という標語を捨てるところからスタートすべきだと思うんです。平等主義的均衡なんて成立しないですから。」という示唆は、その通りだと思う。高度成長期と違い、人口縮小期の時代に自治体を一定規模に分割して、均等に公共施設を配分するような政策は時代にそぐわないのは明らかだ。なのに多くの自治体では未だにそうした政策や予算配分を行っている。迫っている危機を感じながら、真剣に分析して、住民に今後の進むべき道を示す政治家や首長はごく少数ではないだろうか。まず、選挙に勝ってからの話だと考えて行動する政治家ばかりのように思う。日本ばかりでなく、世界中で問題の先送りが横行していると私は、思う。
コンパクトシティ構想
最近、国土交通省が舵を切り始めた「コンパクトシティ」構想に関する政策は、自治体のやり方次第では、人口縮小問題に対するひとつの方策として有効なように思う。都市再生特別措置法の改正により、公共交通を軸としながら、都市機能誘導区域(福祉・医療・商業等の都市機能の立地促進)と居住誘導区域(居住を誘導し人口密度を維持するエリア)を設定しようというコンパクトな都市を目指す構想だ。この構想の先駆的なモデルとなったのがすでに集約が進んでいる富山市だ。中央公論の今回の特集論文の一つ「全国の中枢拠点都市に集中投資せよ」(辻琢也)には、コンパクトシティ構想以外に「いらないインフラは捨て、必要なインフラに集中投資を」という提言も盛り込まれている。
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