人口減少で地方の路線バスの利用者が減少しており、利用者の減少で路線の廃止や便数の削減に追い込まれるバス事業が増えている。こうした利便性の低下でさらに路線バスの利用者が減るという負の連鎖が続いている。
交通の空白地域を減らそう
10月26日の日経新聞の「交通の空白地域を減らそう」という記事は、こうした現状を次のように伝えている。
「地方の現状は厳しい。バス路線をみると、2006年度から6年間で1万1千キロ以上が廃止された。交通空白地域も広がり、駅から1キロ以上、バス停から500メートル以上離れた地域で暮らす人は全国で730万人を超す。地方都市では郊外部で赤字のバス路線が増える一方、駅前と中心部などを結ぶ路線では複数の事業者が顧客を奪い合っている。
自治体が運営するコミュニティーバスと既存の路線バスが競合する場合も少なくない。今後、コンパクトな街づくりを進めるには交通網の再構築は避けられない。観光客を呼び込むためにも移動手段の確保は不可欠だ。これまでのように事業者任せでは空白地域が広がるだけだろう。」
この記事の問題意識については、私も同感だ。そこで、今回、こうした状況の中で行われている、生活路線を守るための各地の動きについて調べてみた。これ以降の内容は、私のホームページの「街づくりあれこれ(交通問題②)」に掲載した記事情報のリンクをベースにして作成したものだ。詳しい内容を知りたい方は、リンクを貼った記事をご自身で読んで欲しい。
国の危機感
路線バスに対する危機感は、国も持っているようだ。「国土交通省は、約7割の事業者が赤字となっている路線バスの経営効率化支援に乗り出す方針だ。2015年度に、乗客の利用動向を分析して利用が少ないルートを見直したり、需要を掘り起こしたりするモデル事業を2カ所程度の地方都市で実施。効果的な経営改善手法を探り、全国に広げる考えだ。15年度予算概算要求に関連経費9000万円を盛り込んだ。」という記事が報道されている。
さらに「国土交通省は2015年をめどに、地方のバスや鉄道会社に車両を貸し出す仕組みをつくる。地域単位で自治体や金融機関と共同出資会社を設立。高齢者らが乗り降りしやすい新型の車両を調達してリースする。地方の交通会社は利用者の減少で経営が悪化し、車両を更新できない例が目立ってきたため、従来よりも踏み込んだ支援策が必要と判断した。」ことも報じられている。
地方の自治体と事業者の取組
地方の自治体も事業者と共同で利用者を増やすための様々な実証実験を行っている。以下は、その一例だ。
〇福井市は10月から、路線バス「鮎川線」の上限運賃を引き下げる社会実験開始。事業
者は上限運賃を1190円から700円に引き下げる。
〇愛媛県東温市の郊外にある上林地区と市街地を結ぶ予約制乗り合いタクシーを運行開始。利用者減少で試験運行が終了した路線バスに代わる新たな公共交通として、市が利用料金の一部を補助。
〇海老名市と寒川町を結ぶ路線バスの復活を目指した実証運行開始。事業者は相鉄バスと神奈川中央交通が参加、広域行政連携の試みとして採算性や公費負担などを検証する。
〇高校生向け青春フリー定期券、湖国バスが発売。彦愛犬1市4町による湖東圏域公共交通活性化協議会が10月1日~来年3月31日の期間限定で試験的に実施。これまでの定期券と比べ、最大で半額程度安くなるほか、利用可能の区間を設けずに彦根・甲良・多賀の各市町が乗り放題になる。
〇松本市の「ノーマイカーデー推進市民会議」が市内の全路線バスを一律100円にする
社会実験を開始。期間中の8日間は大人運賃を一律100円(小学生は無料)にする。
差額分は同会議が市交付金を基に運行会社に補填する仕組み。
富山市・新潟市・仙台市・熊本市の取組
一方で富山市が先行している、<木になる芽その3>でも取り上げた「公共交通を軸としたコンパクトな街づくり」に続く動きが、各地でみられる。ただ、中心となる基幹線は、地域の実情に応じて異なる。富山市の場合の基幹線は「LRT(ライトレールトランジット=次世代型路面電車システム)」だ。一方、新潟市で進められている施策の基幹線は、「BRT(バス高速輸送システム)」だ。仙台市が進めている施策の基幹線は地下鉄だ。
そして、まだ施策レベルまでには至っていないが、熊本市の場合は、既存の市電と路線バスを基幹線とする構想だ。熊本市は、現在、こうした構想の一環として市営バスの民間事業者への路線移譲が進められている。バス事業を移譲するための受け皿会社として、民間3社の共同出資により「熊本都市バス株式会社」が設立されており、他社と競合している都市バスの路線については、市営バスからの移譲完了後に、順次他社への再移譲される予定だ。その後に熊本都市圏のバス網を再編する計画のようだ。
これらの自治体の基幹線は異なるが、考え方は富山市の「公共交通を軸としたコンパクトな街づくり」と変わらないように思う。少子高齢化が進む中で、私も公共交通を軸としたコンパクトな街づくりしか、市民の生活路線を持続的に維持する方策はないように思う。コンパクトシティについての概念論の論争より、いかに地域に合った施策を打ち出して実践するかが大切なように思う。もう、先送りしている時間は残されていない。主導権争いのような政治の駆け引きや事業者の既得権を擁護しているような余裕はないことに一般の国民は既に気づいているはずだ。まして、単なる不採算事業者の延命のための補助金を出し続ける体力は、地方にも国にもないはずだ。
交通結節点で利用者の目的ができるだけ完結する仕組みが大切
私は、地域ごとの基幹線を何にするかを決め、基幹線の駅もしくはターミナルの中から鉄道や支線となる公共交通機関(路線バス、コミュニティーバス、オンデマンドバス、予約制乗り合いタクシー等々)のための適切な交通結節点を選び、そこに生活利便施設(支所や警察等の行政機関、病院、学校、郵便局、銀行、スーパー等)を集約し、交通結節点が単なる乗り換え拠点でなく、支線となる公共交通機関の利用者の目的の多くができるだけ完結できる機能が必要だと思う。また、交通結節点がそうした機能を持つことにより、市中心部への過度なアクセスが軽減され、交通渋滞が改善され、ひいては基幹線の定時走行性の向上も期待できる。
交通選択肢の確保
ひとつ注意する必要があるのは、基幹線の利用を強制するような施策は、マイナス面が大きいということだ。例えば、収益性を高めるために基幹線の事業者を1社に絞るような施策は、事業者による独占を容認することになり、非効率で不透明な経営が行われ、適切なコスト管理の阻害要因になることは、運営主体が民間であっても既に多くの独占事業で証明されている。
交通選択肢を確保することも重要だ。どの交通機関を利用するかは、市民に自由に任せればいい。代替交通機関が確保されていることが望ましい。競争の存在しないところには、不効率な経営が温存され、既得権益化するリスクが常にあるからだ。東京の主要駅でバス便がない駅は存在しないように思う。例えば、鉄道があれば、競合する可能性のある路線バスはいらないということにはならない。いかなる場合も独占については、性悪説で仕組みを考えるべきだ。
仙台市は、既設の南北線が多額の負債を抱えており、2015年開業予定の東西線を既設の南北線のような負の遺産としないためにという理屈で、「東西線と並行する区間を廃止し、主要駅と周辺地域を結ぶ新路線を設置する再編」を当初打ち出していた。東西線沿線のバスを八木山動物公園、薬師堂、荒井の東西線3駅に結節する計画だった。しかし、最近、中心部にバス1本で行く直通便を一部存続させ、減便は当初の500便から250便に圧縮する案を市民に示している。
私は<木になる芽その2>の中でも触れたように地下鉄と並行する路線バスの廃止という仙台市の方針に疑問を持っていた。地方の人口減少が明確な状況の中で地下鉄という巨額投資に成算があるのかという思いもある。採算悪化のリスクが選択の自由を奪われた利用者に受益者負担の理屈で運賃に転嫁されやすくなるような気がしていた。
現在、原発依存に傾斜していた電力会社のツケが国民の電気料金に転嫁されているのと同じ構図のように思う。原発建設のための地元への交付金も結局、電気料金に上乗せする形で利用者が負担していただけだ。仙台市の地下鉄建設費も多額の税金で賄われており、事業リスクも結局、税金と利用者の払う運賃に転嫁されることになるのではないかと私は思っている。きっとそのときの事業者救済の名目は、市民の足を守るということになるのだろう。行政は、いつも国民のためとか、市民のためとか言うが、結果責任はいつもうやむやのままだ。
小規模な自治体の選ぶべき道
ところで、小規模な自治体には独自にコンパクトシティを導入することはできないので、小規模な自治体は近隣の自治体との共同によるコンパクトな街づくりを模索するべきだろう。平成の大合併が成功していないという事実を考えれば、共同や連携による模索の方がリスクが少ないように思う。
小規模な自治体は、交通結節点となるターミナルか、基幹線を外れる場合は、市の中心部に拠点となるターミナルを設置して生活利便施設を集約し、そこで目的が果たせない利用者は、周辺の交通結節点もしくは終点のターミナルで目的を達成することになる。
基幹線は交通結節点以外の駅やターミナルもスーパー銭湯やスポーツ施設等の市民のニーズの高い場所に設定されるべきだ。支線のターミナルは、地域の住民のニーズと交通空白地帯の支援という観点から行政が主体となって整備するのが望ましいと思う。そして、帯広市を営業地域とする十勝バスが企画した「日帰り路線バスパック」のような路線バスに地元の観光資源を組み合わせて販売することで旅行者を呼び込むことができないだろうか。
ちなみに新潟市の場合、基幹線となるBRT路線の新潟駅前、市役所前、白山駅前、青山を鉄道との接続や主要路線の終点を兼ねた交通結節点として快適に乗り換えられるよう、上屋や防風壁、運行情報の案内板などを設ける予定だ。
〇地域公共交通の確保・維持・改善に向けた取組マニュアル(平成 24 年 3 月国土交通省)
BLT路線図
〇バス路線、利便性向上へ再編 岐阜市が計画案
*幹線には、2台の車両をつなぐ連節バスを走らせるバス高速輸送システム(BRT)を導入。支線の運行は地域の要望を踏まえた本数や時間帯とし、路線を維持する。高齢者らの通院や買い物など日常生活に必要な移動はコミュニティバスが担う。