コンパクトシティの歴史
私が、コンパクトシティの概念に興味を持ったのは、今年(2014年)の5月にこのホームページを始めてからだ。もともとは少子高齢化対策には、公共交通問題の解決が不可欠だと考えて調べ出したのがきっかけだ。
だから、コンパクトシティという考え方がいつ頃から提唱されたのかというところまで考えていなかった。
しかし、私にはコンパクトシティの歴史自体を研究する意図はない。ただ、日本におけるコンパクトシティ構想の歴史は浅く、米国のポートランドでは1970年代にはコンパクトシティの取り組みが始まっていたことを知った。ポートランドは、コンパクトシティ政策により現在、全米で最も住みたい街となっており、人口が増え続けているという。
ポートランドは、現在、富山市が進めている公共交通機関を軸にしたコンパクトシティ構想に早くから取り組んだ先進都市だそうだ。そして、ポートランドは、こうした経験の中で「公共交通の駅周辺に人口密度の高い住宅地や商店等を配置することの重要性を学んだ。」という。
「公共交通の結節点を中心に高度な土地利用を図る考え方は、公共交通を中心とした街づくり(TOD:Transit Oriented Development)と呼ばれ、現在(1999年)アメリカで注目されているものだ。」そうだ。([歩行者優先の交通政策と都市の成長管理で持続的成長を図る」月刊環境自治体 1999年10月号より)
TODという略語まで既に存在していたことを知った。「環境都市として名高いドイツ南西部のフライブルグ市などの、海外事例に注目していた。」との富山市長の発言があるが、富山市の構想にポートランドの事例が組み込まれているのかどうかは調べていないので分からない。
ただポートランドの公共交通機関は運賃収入だけでは赤字のため行政からの補助金を得て運営されているという問題がある。ポートランドの公共交通機関の実態については下のレポートを参考にした。富山市のライトレールは、上下分離方式を採用したこともあり、黒字であり、事業の持続性を考えた場合、富山市に軍配が上がるのだろうか。
各自治体は、自ら地域の実情に合ったあった持続可能なコンパクトシティ・モデルを模索し、実践することで、現在、地方都市が直面している少子高齢化問題に挑戦することが大切なように思う。ビジョンは実践しなければ、その問題点も見えてこない。
京セラを創業した稲森和夫氏は「できない理由を並べ立てる人がいる。これでは新しい事業を達成することはできない。何もないことを前提として、目標を達成するために必要な人材や設備、技術をどう調達するかを考えなくてはならない。」と説いている。
(ポートランドの公共交通機関の実態に触れているレポートの抜粋)
<公共交通を運営しているTriMet(トライメット)の計画担当者との面会を通じて>
ポートランドはLRTを中心とする再開発の成功事例として都市計画の分野では広く知られている。ダウンタウンでは無料のLRTが市民・観光客の足として活用され、自動車交通の削減に成功しているとのことであった。実際に現地を見て感じたことは、ポートランド及び周辺地域は道路ネットワークが完備されており、LRTは地域のシンボルではあるがLRTだけが現地の交通需要に対する解決策ではないことであった。また、ダウンタウンでは乗降無料となっているが、その範囲は狭くて充分に端から端まで歩けるほどである。市内の交通量も京都市内の中心街と比べても圧倒的に少なく、このLRTを京都をはじめとする日本の大都市における交通の解決策とするには条件が違いすぎると実感した。
TriMetの計画担当者によると、TriMetの経営は赤字で州の補助金を受けており、かつては無料であった市内のバスも現在は有料化され、行政からは補助金を削減されていた。富
山市で運行されているLRTは黒字経営であることを考えると、公共交通の経営に関しては富山の方がポートランドより優れていると言えよう。
ポートランドではダウンタウンを含め自転車道の整備が非常に進んでおり、多くの市民が自転車を利用していたことが印象的であった。それでも、ポートランドでは現在もStreetcar(路面電車)の延伸を計画中であった。経営が赤字の中でも路面電車を延伸する理由は、事業としてよりもむしろ低所得者のモビリティの確保が主たる目的であり、設置・撤退が容易なバスでなく路面電車を導入するのも、市として低所得者に対する長期のコミットメントであるとのことである。このように、公共交通においても単なる採算性だけでなく、多面的な視点からその意義を認めている点が特徴的であると感じた。
「ダーラム市、ポートランド市紀行」より抜粋
安東直紀 京都大学大学院工学研究科特定准教授
野本愼一 京都大学大学院医学研究科教授
(注)レポートの報告者がポートランドを視察したのは平成22年11月
○歩行者優先の交通政策と都市の成長管理で持続的成長を図る (月刊環境自治体 1999年10月号)
〇自然と共に経済発展する街 ( 前編 ) ~ ポートランドが実現したヒューマン・シティ ~ [ 2013年1月23日 ]
〇富山市のコンパクトシティはLRTから始まった [ 2014年11月7日 ]
○ダーラム市、ポートランド市紀行(2011-06-15)